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会議 - 18 4月، 2024

敬愛なる指導者のオックスフォード大学生に向けた 21世紀のアフリカに関する講演

皆さま、こんばんは。オックスフォード大学の教員、学生、学友会の皆さまとこうしてお会いできる機会を提供いただき感謝します。今後も世界各地を悩ます社会的、経済的、政治的な危機と課題ついて、皆さまと一緒に考える機会が折々にあることを願っています。

21世紀のアフリカの問題について語るよう要請をいただきました。私がこれから話すことがアフリカ人やオックスフォード学生のみならず、世界全体にとって有益なものとなるよう願っています。

かつてのいわゆる冷戦は、米国、ソ連、東ブロック、西ブロック、北大西洋条約機構(NATO)、ワルシャワ条約機構を中心とする主要な勢力がアフリカをめぐって争う時代でもありました。こうした対立ないし競争がアフリカと全世界に大変マイナスかつ有害な影響をもたらしました。

こうした対立によってアフリカは深刻な影響を受けました。イデオロギー闘争の場と化したのです。軍事的・政治的影響力の拡大を狙う米ソの競争がこの大陸の姿を変えました。資源の独占と経済的勢力ないし市場の拡大を狙う勢力同士の争いも同様の結果をもたらしました。東西の争いは実に激しく、アフリカの一次資源と国際協議の場における同盟国の獲得を目的に延々と争いが続きました。

私たちはこうした争いの犠牲者です。世界もそこから利益を得たわけではありません。さらに新たな戦場がひとつ加わっただけです。かつて戦いは、東西ヨーロッパの中で、その領地をめぐって争われていました。それがアフリカにまで拡大したのです。アフリカは東ブロック、西ブロックの陣営に分断されました。かつて大国の国力を吸い尽くしたように、戦争はアフリカを疲弊させました。

米国もソ連もアフリカにおける勢力拡大のために非常に多くの資源を費やしました。これが世界の平和、安定、安全保障、経済に負の影響をもたらしました。各地で革命、戦争、争いが勃発し、暴力行為、暗殺、殺人行為が見られました。程度の違いはありますが、同様のことがかつての欧州でも起きました。対立、冷戦(cold war)、そして時折の本格的な戦争(hot war)において。その時は、アフリカ、とりわけ北アフリカ――より厳密にいえばリビアの周辺地域――が冷戦時代にそうだったように、ヨーロッパをめぐって対立が起きていました。

私が言いたいのは、本格的な戦争であれ冷戦であれ、アフリカやヨーロッパといった大陸が大国間の争いの場と化すのは、その地域と世界にとって必ず非常に好ましくない結果をもたらすということです。だから私は、この懇談会を通じて世界が過去から必要な教訓を得て、このような習慣を断ち切ることを強く願うのです。

欧州はかつて分断されていました。東西の軍事的衝突がありました。その欧州が今や統合体となっています。その統合が政治的、経済的、心理的な安定に大きく貢献しています。今日の世界において、欧州はロシア連邦と米国の間の緩衝地帯となっています。今後も平和と統合を維持し、対立ではなく対立勢力を隔てる地帯としての役割を果たすことが期待されます。

さて、本日のメインテーマであるアフリカに話を戻しましょう。アフリカは冷戦時代以来の争いからようやく抜け出すことができました。しかし、最も残念なことに、アフリカをめぐる新たな争いの兆しが明確に見えてきています。過去の悲劇がまた繰り返されるかもしれません。アフリカをめぐる米中の争いが今まさに起きています。この脅威に対して、先んじて警鐘を鳴らすことが本日の私の使命です。

このことを人はなかなか話したがりません。あるいは非常に遠慮がちにしか話さない。あたかも病人が手遅れになるまで病気を放置しているかのようです。私はアフリカの人々、そして世界に対して真実を包み隠すことなく話したいと思います。アフリカにおいて新たな争いが起きています。アフリカは再び大国同士の争いの場となりそうです。また、この争いは当事者である米中の国力を消耗させることでしょう。

この2つの国がとるアプローチについてわかりやすく説明します。米国はアフリカに対して、強引で乱暴なアプローチをとります。兵士と武器と共にやってきて、基地をアフリカに持ち込みます。アフリカに米軍基地と米軍司令部を設けるのがその目的です。アフリカの内政にもあからさまに介入します。米国国内ではまったく省みられない人権を口実にアフリカに侵入し、圧力をかけます。人権と民主主義を声高に叫びます。そもそも民主主義など米国にもそれ以外のどの地域にも存在しないのに――。彼らはまた良き統治(ガバナンス)について語りますが、現実にはそれも実現していません。そして内政のありとあらゆる側面に介入してきます。米国の手下かCIAのスパイが逮捕または取り調べを受けた際には、あらゆる詳細を米国側に説明するよう要求されます。その人物が監禁されている場所、何が起きたか、そしてなぜ拘束されたかを。自国民が同様の状況に置かれた時に、米国に対して同様の要請をできる国がこの世界に存在するでしょうか。そのような国などありません。にもかかわらず、なぜ米国はそのような権利を主張するのでしょうか。これがアフリカに対する米国の強引なアプローチです。

中国と米国はお互いに競争しています。いずれもアフリカを植民地化し、その富を我が物にしたいと考えています。しかし、中国はソフトなアプローチをとります。アフリカ諸国に対して、自国の政治システム、人権、表現の自由、良きガバナンス等を説くことはありません。他国の内政に介入することもまったくありません。兵隊を連れてくることも、武器を持ち込むことも、基地や司令部を設立することもありません。その代わりに、600以上の中国系企業がアフリカの奥深くに侵入しています。いくつかの中国人コミュニティがアフリカに形成されつつあります。これが中国のソフトアプローチです。

このソフトアプローチゆえに、アフリカ人は中国を温かく歓迎しています。中国にとって間違いなく利益となるでしょう。アフリカは強引なアプローチをとる米国を警戒しています。米国の政策の愚劣さを裏付ける現象です。米国は世界に関して無知です。常に愚かで常軌を逸した行動をとります。過去のベトナムやソマリア、そして現在のイラクにおける行いからも明らかなように、アメリカは常に愚かでとっぴな行動をとります。戦争をしかける地域に対して常に無知です。だから必ず負けるのです。対照的に、中国はアフリカ人の心情に合ったアプローチの仕方を心得ているように見えます。彼らは平和的にアフリカにやってきて、足場を固めました。アフリカを獲得するのは中国でしょう。

この警戒すべき事実について、私は声高に、そして明確に指摘したいと思います。誰もそのことについては話しません。アメリカという巨人に対抗するために中国を味方につけるべきだ、と一部の者は考えます。しかし、植民地主義には、力によるものとより優しい方法によるものとがあります。つまりソフトな植民地主義と強引な植民地主義とが――。しかし、つまるところ、植民地主義は植民地主義でしかありません。中国を歓迎する者がいると言いましたが、私たちアフリカ人はおしなべて米国の強引な侵入を抑止するものを求めています。だから中国側につくのです。しかし、中国は次のことを知っておくべきです。私たちアフリカ人は中国が帝国主義国に転じる可能性があることを認識的していることを。アフリカに定着あるいはその資源を安値で買い叩き、自国の工業製品を高値で売りつけようとしたとたんにその国は植民地主義国となるのです。

米国寄りのアフリカ諸国は少数です。仮に国民投票が行われれば、中国が優勢となるでしょう。大多数の人は米国を恐れています。過去の各地における行為もあって、人々は米国が軍を駐留させ、内政のあらゆる側面に大きく介入することを警戒しています。

米中対立は私たちが現在直面する問題のひとつです。もうひとつがアフリカ連合(AU)の問題です。もしアフリカが欧州と同様に統合を果たせば、これはアフリカだけでなく世界全体の利益となります。欧州が2つの勢力に分かれて対立することがなくなったこと。また、一触即発の火薬庫でなくなったこと。そのことは、欧州とその住民、さらには世界全体に恩恵をもたらしました。第二次世界大戦時に欧州に駐留した米軍がまだ残っていることは私も認識しています。これが欧州、地中海地域、そして世界全体の平和を脅かしています。すぐにでもいなくなってしまうことを願っています。しかし、これは欧州の問題です。

「欧州」は今日、それ自体と世界にとって政治的・経済的な資産となっています。統合された欧州は、その共通の通貨と政策でもって、世界に安定をもたらす要素となっています。アフリカでも同様のことを実現するのが私たちの願いです。ひとつの共通通貨、ひとつの中央銀行、そして共通の安保政策が実現することを――。統一された輸出入政策をもつ単一のアフリカ市場は世界経済の原動力となります。

現在、アフリカには50の国があり、それぞれが異なる貨幣、中銀、経済システムを有しています。これが私たちの存在を無に等しくしています。主要経済圏に対して、マラウイとギニアビサウを合わせたところで経済規模は高が知れています。EU、米国、中国、日本などの巨大経済国が10台の車を購入したいというガンビアの代表者に時間を割いてくれるでしょうか。しかし、仮にアフリカ市場全体を代表する者が 50万台の車を輸入したいといえば、状況は一変します。取引規模からいって、時間を割くに足るクライアントとなるからです。ガンビア、マダガスカル、マラウイ、ギニアビサウ、はたまた産油国であるリビアですら、単独でいる限り、一体誰がビジネス交渉に応じてくれるでしょうか。このような小国と交渉したり取引したりすることは誰にとっても時間の無駄です。アフリカの分裂は世界経済のためにも主要国市場のためにもなりません。先述の巨大経済国がアフリカ連邦の貿易担当大臣と交渉した場合を想定してみましょう。その方が、単一アフリカ市場の規模と需要からして、世界経済にとってはるかに有益です。

主要国と全世界がこの事実を理解することを願っています。そして、彼らがアフリカの統合とアフリカ合衆国の設立に手を貸してくれることを。これは世界の平和、安全保障、安定にも貢献します。世界経済、そして米中に巨大な利益をもたらします。

中国、米国、欧州、日本の企業進出を私たちは歓迎します。しかし、私たちの土地に定住ないしそれを植民地化することはできません。私たちを恐怖で支配することも、脅迫または搾取することも――。私たちは決してそれを許しません。今日の私たちはかつてのアフリカ人とは違います。世界一流の科学者や専門家もいます。過去に使われた子供だましのトリックに騙されることもありません。

大量破壊兵器、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、核兵器、空母などの製造に天文学的な資金が費やされました。同様に信じられない額が軍事基地や軍隊に浪費されました。仮にこのような悪しき浪費にふける者がその一部をアフリカにいる私たちのために使った場合を想像してみてください。たとえば、米国、欧州、日本、中国がコンゴの「アンガ(Anga)」ダム建設に協力したとしましょう。暗黒のアフリカ全土を明るくするのに十分な電力を生産できるようになります。余りある電力を欧州とアジアに、それぞれ北アフリカとエジプトを介して売ることができます。なぜ、数十億ドルをこのような有意義な、人道的な事業に割くことができないのか。軍事基地や軍隊よりましではないでしょうか。そして、人権、良きガバナンスなどについて語るよりも。良き統治、表現の自由が一体何を意味するのか――。自分の考えを述べようにも、新聞を印刷する紙すら無い状態です。私たちの視点を伝えるための放送局も無い。ただ苦みの中で泣き叫び、わめくことで自己表現するのみです。私たちには、苦痛を表現する自由があるのみです。そのひとつの例がチャド湖の消失です。

私はヨハネスブルグの地球サミットにてチャド湖に関するペーパーを提出しました。湖はかつての10分の1に縮小しています。アフリカそして世界にとって大きな環境災害です。なぜ、湖を救う手助けをしてくれないのか。コンゴ、中央アフリカ、カメルーンの河川と湖とをつなぐ水路をいくつか作ることも可能です。水路を阻む砂や木を除いて、これらの河川から再び水がチャド湖に流れるようにするのです。このペーパーはウェブサイト(www.Algathafi.org)に掲載しています\。

チャド湖を救い、「アンガ」ダムを建設しようとする私たちに手を貸してくれるよう、世界に呼びかけています。電力を生産し、世界の「肺」のひとつを救うことができます。世界には酸素を供給する2つの「肺」があります。そのうちのひとつがアマゾンの熱帯雨林でもうひとつがコンゴの熱帯雨林です。しかし、干ばつ、砂漠化、河川の過剰利用、コンゴにおける破壊的な内戦が世界の「肺」を危機にさらしています。これを救うよう世界に呼びかけたい。

以上、世界に関心をもってほしい問題をいくつか述べました。アフリカに関して、これまで誰も指摘しようとしなかった問題について話す機会をいただき感謝しています。世界の他の地域に関してご質問があれば遠慮なくどうぞ。私の手元には「緑の書(Green Book)」と「白書(White Book)」があります。どのような質問にもお答えします。

【質問】 敬愛なる指導者にアフリカ大陸の情勢を分析していただきました。これは学生の1人から出た質問です。なぜ、リビアの武力でもって、アフリカの紛争問題やソマリアやジンバブエなどにおける人道的問題の解決を図ろうとしなかったのでしょうか。

【カダフィ閣下】国連軍の殆どがアフリカにいます。あまりにも多くの紛争があるため、それらを解決するために4分の3近くの国連軍に来ていただくよう要請したのです。アフリカを分割した植民主義国が主な犯人です。これらの紛争はすべて、植民地支配によって分断された民族同士の部族ないし国境紛争です。アフリカはかつて1つでした。それが今や50もの国に分かれています。複雑な国境線が1つの部族を2~3ヵ国に分断しました。コートジボワールの紛争がひとつの例です。かつてボルタ川の上流・下流はひとつの「くに」でしたが、列強がこれを「コートジボワール(象牙海岸)」という国と「オートボルタ(上ボルタ)」(後のブルキナファソ)という国に分割したのです。ひとつの「くに」の住民が2つの国に分かれたのです。北部の住民は南部に行けなくなりました。コートジボワールの市民権を持たないとして、彼らの国であるブルキナファソに帰れといわれたのです。このような状況が積もり積もって内戦となりました。問題は今なお続いています。植民地時代に引かれた国境がその原因です。

アフリカ大湖地域の部族紛争も植民地時代の国境線が原因となっています。列強がルワンダ、ブルンジ、コンゴという「国」を定め、フツ族とツチ族をそれらの国に分断しました。コンゴ内戦とルムンバ殺害の裏にも植民地支配が関わっています。同地における資源争奪戦も植民地支配の産物です。コンゴのダイアモンドやウラニウムをめぐる争いの裏には植民地支配がありました。日本に投下された原子爆弾の製造にこのウラニウムが使われました。

ソマリア内戦についても同じことがいえます。この地は植民地時代にイタリア領と英国領に分断されました。なぜ、ひとつの統合されたソマリアのままでいられなかったのでしょうか――。イタリアと英国がそれぞれ北部と南部を植民地化したからです。他の多くの国際問題と同様に、この内戦の余波は今なお続いています。

ガンビアの地図を見てみましょう。考えられない形です。セネガルの中心を流れるガンビア川流域に英国人が来て占領し、国を設置しました。そこの住民に英語を教え、独立させました。 その周りをフランスの旧植民地だったセネガルに取り囲まれています。

ご質問に対する回答としては、アフリカには多国籍軍が十分にいるということです。リビアはAUの一部です。もしAUが自らの軍隊または数カ国の混成軍を特定の地に派遣する決定をすれば、リビアはそれに参加する用意があります。しかし、問題はこれだけに留まりません。軍隊を派遣して平和を取り戻すだけでは不十分です。 解決には真のアフリカ統合が不可欠です。植民地支配の遺産を精算しなければなりません。アフリカ合衆国の設立が必要です。国の数が50でも1000でも関係ありません。必要なのは統一された政治的枠組みです。そこに解決の道があります。したがって、当面はAUの本格的強化がとるべき最善策となります。

もうひとつ指摘したいのは、このような軍隊は資金を必要とすることです。国連は正規の平和維持軍以外の軍隊に資金を提供しませんが、国連平和維持軍の評判は決して良くない――。スーダンなどの国はそれがダルフールに介入することを拒否しています。多国籍軍が自らの権限を広げる、または米国がその権限を広げることで、その国の内政や市民の逮捕・裁判に介入してくることを恐れています。これは形を変えた植民地支配であり、新たな紛争の種となります。そうした地域に軍隊を送り込むのは非常に困難です。

【質問】タレク(Tareq)と申します。チュニジアから来て学んでいます。私の質問は統合の概念と民主主義の取り扱いについてです。民主主義とサハラの危機に関して多くの問題があると思います。各国の首脳がこうした問題の克服に乗り出すべき時期ではないでしょうか。いつになったら真の国家計画ができるのでしょうか。共通市場ができるのはいつでしょうか。そのために、いかにして官僚主義の壁を乗り越えるべきでしょうか。

【カダフィ閣下】各国首脳がその呼びかけに応じるよう神に祈ります。私も個人としてその意見に同感します。だから、人民主権の確立を呼びかけています。人民主権とは、人民が統治者や政府によらずに自らを治めることです。アルジェリア人とモロッコ人の間には憎しみも敵対心もありません。いわば兄弟のようなもの。しかし、統治者の政治的立場は分かれます。

支配者が存在する限り、彼らが政情を左右します。私たちは人民主権が世界各地に定着することを願っています。そうして真の恒久的平和が訪れることを。人間はお互いを嫌ったり侵略したりしないものです。侵略や占領は支配者と常備軍の行為です。これらが世界平和を脅かしているのです。戦争や侵略について語るときに、「ドイツ人が(あるいはモンゴル人が)どこそこを侵略した、占領した」とは言わずに、指導者の名前を持ち出すでしょう。フラグ、チムール、ジンギス・カン、ヒトラー、ナポレオン、ムッソリーニ、ブッシュ、等々。まったくその通りです。人民は侵略をしない。軍を統べる支配者が侵略する。ヒトラーさえいなければドイツ人は平和です。欧州と全世界に戦争を仕掛けたのはヒトラーだから。ナポレオンの存在はフランスが好戦的な国であることを意味しません。その歴史にも関わらず、フランスは今日、平和を愛する国として知られています。

また、アラブ人またはムスリムの欧州制服に関しても、個人的には高く評価していません。私はこれも植民地支配と見ています。アラブ人はシチリアを300間、イベリア半島を800年間支配していましたが、支配者が去った後にムスリムはまったくいなくなりました。はたして、これを輝かしい成果といえるか。これも所詮征服と植民地支配でしかありません。それを命令したのは支配層です。戦利品、財宝を目当てに、そして少女を奴隷とするために。今日においては、選挙での勝利、大統領の第二期当選、石油利権の獲得がいわば戦利品のようなものとなっていますが。これらはすべて国民の願いとはまったく無関係な指導者個人の野望です。

【質問】指導者の考えでは、AUがスーダン国民全体の事前承諾なしにスーダンに軍事介入するのは適切でしょうか。

【カダフィ閣下】ダルフール問題についてのご質問ですが、私は政治的・外交的問題に関しては大胆な考えを持っていることを申し上げなければなりません。私はこれらの問題を社会的ないし心理的側面から捉えたいと思います。私は政治家でも外交官でもなく、あくまでも革命の指導者であり社会改革者なので。私もこれまでダルフール問題に関わってきました。この地の長老、スルタン、市民が何百人となく問題解決の相談をしに私のもとを訪れました。ダルフールに国際援助がある限り、紛争、難民、避難民はなくならない――。米、小麦粉、ミルク、缶詰の食料が支給されると聞いた人々は、自分の住む村を離れて難民キャンプに移ります。危機がこれらの食料をもたらすのなら、それをあえて解決する必要などありません。

リビアはベンガジ港を国際支援物資の陸揚げのために提供しています。リビア国境とダルフールとの地理的な近さから、援助物資の国内通過を容認することにしました。物資がアル・カフラ空港から輸送されると聞いて、人々はなぜ紛争を止めるのかと自問したでしょう。夜間に村を離れる口実を作るために事件を起こすように言われた者もいます。あるいは、日中に難民キャンプで物資を受け取り、それを村にいる家族に持ち帰るために――。ダルフールで起きた問題はこれだけにつきません。それ以外にも多くの問題が起きました。仮に紛争が多国籍軍を連れてくるのなら、それを相手に商売や取引ができると同時に、彼らに警察的な役割を果たしてもらえます。これが紛争を長引かせるもう1つの要因となっています。

危機が国際化すると、政治的ないし軍事的な反政府リーダーは一躍有名人になります。彼らが話すことを世界中が聞いてくれます。抑圧され周辺化された人々の擁護者に見られるからです。これも紛争を長引かせる「誘惑」の1つです。紛争が解決するともはや有名人でなくなるからです。だから、ダルフールのような状況においては、その地域や人々の好きにさせることが解決方法であると考えています。彼らは自分たちで問題を解決できます。本当に解決不可能な問題ではないからです。外部勢力の介入が問題を危険で複雑なものにします。ダルフールをめぐる米中の対立は石油の発見に由来するとも言われています。以上のことから、他国の介入が紛争の種となり、またその火に油を注いでいるとの見方もできます。これは実は植民地主義国同士の争いです。その中で私たちは何をすべきでしょうか。影響力拡大を狙う米中間の競争ゆえにダルフール紛争が複雑化しているのなら、経済的野心を持つ大国が危機の元となっているのなら、一体私たちに何ができるのでしょうか。中国も米国も味方でない中で、両国が展開している地域に軍隊を送ったところで何ができるでしょうか。誰に対して軍隊を送るのでしょうか。

【質問】 BBCの視聴者も他のいくつかの問題について大きな関心を示しています。時間の許す限りそれらの質問に答えていただけると幸いです。まず、第一に、パレスチナ-イスラエル問題の解決策を提案されましたが、具体的にどのように実現すべきとお考えでしょうか。

【カダフィ閣下】この紛争は慢性的なもの、いわば世界にとっての慢性的な病です。それによって世界という生命体が毒に侵されています。パレスチナ問題がアラブ人とアメリカ人が敵対する原因となっています。米国はこれまでずっとイスラエルに味方していました。あらゆる平和的・軍事的手法が試されましたが、いずれも紛争に終止符を打つことはできませんでした。現在のプレーヤーは信頼できません。なぜなら、この問題に真の関心を持たないから。たとえば、イタリアの元大統領はこう言いました。「我々は当面の解決策を探している。我々が生きている間有効な。 後でこの地域がどうなっても知ったことではない。我々の責任ではないから」と――。一時的な解決策を探すのは、一時しのぎの、いわば鎮痛剤を使うようなものです。病の治癒とはならない。そのこと自体が非常に深刻です。仮に、医者が病気に対して根本的な治癒を与えずに鎮痛剤を使うとしたら、その判断が死因となりえます。鎮痛剤は苦痛を和らげますが、その間に病気は確実に身体を破壊します。前にも言った通り、現在の主要な プレーヤーは解決に真の関心を持っていないのです。もしかすると当面は自国の貿易ないし安全保障に関する利害があって平和などを望むかもしれませんが、解決に関心を持っているわけではありません。地域のある勢力は勢力固めを狙うかもしれません。問題解決の努力をするふりをして、降ろすことのできない安定化要因として見られようとします。そうして、権力を握り続け、解決ではなく自己の利益を図ることとなります。そうした人物をぜひ再選させるべきだというようなことを聞きます。他の者は米国あるいはイスラエルの便益を図るが故に権力の座に据え続けられます。もしくは、世論を味方に付ける方法を知っているがために。これらはすべて自己中心で個人的な理由です。例として、米国の大統領を見てください。どの大統領であれ、パレスチナ問題に取り組むのは純粋に選挙目的であるのが常です。もし、現大統領(ブッシュ)のように再選が不可能な場合は、党利のためにやります。共和党に投票するよう米国の有権者を説得するために、中東問題の解決に資すことができる党として。どのような行為も中東のためでも、イスラエル人、パレスチナ人のためでもなく、党や政治家個人のためのみに行われます。誰もがこの問題を利用しています。ある種の脅迫状みたいに。これが現在の当事者と黒幕が抱える問題です。

私はこの問題の解決に個人的な関心は持ちません。米国人にもイスラエル人にもパレスチナ人にもアラブ人にも、いかなる勢力であれ、私はご機嫌を取るつもりはありません。国民も私や私の党を再選させることはできません。つまり、私自身は国民に対して自分をアピールする必要がないということ。パレスチナ問題を検証した成果物として、「イスラチナ(Isratine)」と題する白書を著しました。イスラチナ、すなわちイスラエルとパレスチナの合体国家です。非常に説得力のある解決先を提案しています。パレスチナ、イスラエル双方の多くの著名人の考えや視点を集約しています。ザイオニスト指導者やイスラエル建国者の中にも現在の状況を憂慮する者がいます。決して問題解決にはつながらないと――。パレスチナ人も同様の見方をしています。主要国も同じビジョンを共有しています。対立の歴史に終止符を打つ、正しい解決策はパレスチナ人とイスラエル人を統合する単一国家の設立です。国連の監督のもと、民主主義的な国家づくりが進められるべきです。選挙も国連の監督下で。人種差別を排除すべきです。イスラエル人とパレスチナ人のどちらが選挙に勝っても問題が起こらないように。究極的には彼らはすべてセム族です。アラブ人とイスラエル人は従兄弟です。世界のあらゆる地域から追放されたイスラエル人には、他に行くところがありません。この地に永住したいのであれば、平和的、調和的に暮らす必要があります。侵略者であってはならない。米国は永遠には守ってくれない。誰も永遠には守ってくれません。ある日突然、米国の傘を無くして一人ぼっちになるかもしれない。だから、他者を受け入れ、それとの融合を図ることは彼らの利益となるはずです。それが現実となるのは、単一の統合国家が設立されたときのみです。

ひとつの宗教、ひとつの言語・民族を持つ「純粋」なイスラエル人国家を語るのは、排他的で時代遅れのアプローチです。手に砂を握って海に入り、それが濡れないよう願うようなもの。つまり不可能ということ。イスラエルはアラブ人の「海」の只中にあります。その中でどうやって純粋性を保つというのか。国内には現在100万人のパレスチナ人が住んでいます。将来的には2~300万人に増えます。「純粋性」は無理だとこれでお分かりでしょう。また、仮にパレスチナ人国家がヨルダン川西岸に建設されるとしましょう。そうなるとイスラエルは東西の幅がわずか14キロメートルとなります。軍事行動が取られるや否やこの国は2つに分断されます。これは私だけの考えではなく、イスラエルを建国したザイオニストの指導者たちも同じことを言います。火山のクレータのような土地に国を作ってしまった。とても生き残れない――。問題の本質は、パレスチナというひとつの土地を巡って2つの勢力が争っていることにあります。ひとつの勢力がその土地を我が物とし、一方的に建国を宣言するのは自ら問題を招くようなもの。ふたつの勢力が合意に達するか、この地が永遠に紛争の地となり続けるかです。しかし、ひとつの勢力が一方的に建国を宣言する事態が現に起きました。だから、アラブ人はイスラエル人がパレスチナ全土を専有した状態を認めることも受け入れることもできないのです。トルコの例もあります。北キプロス・トルコ共和国が建国を宣言したとき、トルコを除いてどの国もそれを国家として承認しませんでした。なぜなら、キプロスは等しくキプロス人、トルコ人、ギリシャ人全員のものだから――。パレスチナもすべての住民のものであるべきです。パレスチナ人、イスラエル・ユダヤ人、アラブ人・ムスリム、キリスト教徒に関係なく。すべての人間の土地なのです。

この土地は分割不可能です。ヨルダン川と地中海に挟まれたこの土地は2つの国を建設するには狭すぎます。ユダヤ人の世界人口は1200万を数えます。仮にその1200万人が今日の「イスラエル」に帰ったとしましょう。一方、イスラエル国外に住むパレスチナ人も500万人います。彼らがすべて帰ると、国内のパレスチナ人はおよそ700万人に膨れ上がります。かくも大勢の人間が、この小さな土地、しかも2つの国に分断された土地に住むことができるでしょうか。単純に不可能です。

イスラチナはすでに存在しています。西岸地域にはパレスチナ人街とイスラエル人居住区が混在しています。一緒に、寄り添いながら生活しています。イスラエルと呼ばれる国には、先述の通り、イスラエル市民権を持つ100万人のパレスチナ人がいて、イスラエル人と共に暮らしています。イスラエル人の向上を動かしているのはパレスチナ人労働者です。1948年当時のイスラエルでは、西岸地域とガザ地区からの労働者が働いていました。イスラエル人とパレスチナ人はモノとサービスの取引、そして治安に関して完全に相互依存しています。彼らは他の誰よりもお互いに近い存在です。紛争に終止符を打つのは、ふたつを統合した単一国家です。宗教的、人種的、言語的差別の文化を払拭すべきです。これは守旧派の文化であるから――。イスラエルとパレスチナの若者は平和と統一国家を望みます。自由に往来・取引でき、普通に生活できる国を。これが彼らの望みです。そして、これが白書で提案する解決策です。この解決先が人々に自然に受け入れられると確信しています。なぜなら、利己的な野心から出ていないから。人々に嘘をつき、だまそうとする現在の当事者と違って。私はそのようなことはしません。

【質問】カダフィ閣下にご質問です。単刀直入にお願いします。エジプトとヨルダンがイスラエルと国交を樹立しました。アラファト議長もパレスチナ人を代表してイスラエルと同様の関係を結びました。リビアはイスラエルとの間に問題を抱えていません。にも関わらず、なぜリビアとイスラエルの間には国交が無いのでしょうか。

【カダフィ閣下】この質問は物事の順序を取り違えています。これは外交問題ではなく、問題解決に関わることです。しかし、ご質問では問題解決ではなく国家承認のことについて聞いています。誰かに生肉を与えて、なぜ食べないのかと聞くようなものです。むしろなぜ生肉なのかを先に聞くべきでしょう。その上で食べる、食べないを問題にすべきです。私の言いたいのは、優先順位は問題解決が先だということ。その上で国家承認について話すことができます。問題の解決なくして国家承認について話し合う余地は無いと思います。

オックスフォード大学、学友会、通訳者、放送関係者の皆さまに感謝します。今後とも時間が許せばこのような場を持ちたいと思います。とても有意義な懇談会だったと思います。

【質問】閣下の明確なビジョンと博識に感銘を受けました。最後に、イラク米国間の問題に関して、両国首脳にどのようなアドバイスを送りますか。

【カダフィ閣下】イラクの核開発計画が平和利用目的で行われている限り、私はそれに反対する理由は無いと考えます。誰もそれを否定する権利は無い筈です。何が本当に問題なのか――。核兵器の拡散を阻止することか、第三世界諸国による核エネルギー利用を阻止することか。平和利用目的で核エネルギーを利用する権利をイランから剥奪することは、すべての途上国ないし第三世界諸国の核利用権利を否定することに等しい、とイランは主張します。どうしてウラン濃縮を阻止できるのかと彼らは言います。平和利用目的で濃縮を進めている限り、誰もイランの計画に反対できません。もしそれが軍事目的なら、イランは、リビアだけでなく他の国々もそうするなら、 核開発計画を放棄する意思があるというでしょう。核兵器の生産は止みません。中東にはディモナ(イスラエル)という巨大な核兵器庫が存在します。パキスタンもインドも核兵器を所有しています。中国も核所有国です。ロシアは核大国です。これらの国々と地理的に近いのに、どうしてイラン一国だけが核兵器を所有できないか、彼らとて疑問に思うでしょう。アラブ人を含めて多くの人々が同じような疑問を持っています。たとえばエジプトも、イスラエルとイランの両国が核兵器やミサイルを所有できるのなら、同じ権利を主張するかもしれません。あるいはシリアも。

もし大量破壊兵器が問題なら、先述の通りイランは、すべての国の軍事的核計画が停止しすべての核兵器が解体されない限り、核開発計画を放棄することはできないと主張するでしょう。しかし、イランは軍事的目的での核開発をこれまで認めていません。あくまでも平和利用目的のみの開発であると主張しています。だから誰もそれを止める権利は無いのです。これで話の締めくくりとさせていただきます。ありがとうございました。

【司会者】ここにいるオックスフォード大学関係者一同を代表して、敬愛なる指導者に改めて御礼を申し上げます。貴重なお時間を割いて私たちの疑問や質問に答えていただき、ありがとうございました。

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