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記事 - 20 4月، 2024

アラブ連盟:現実を無視か、現実に無知か?

アラブ連盟は、20世紀前半に創設された。今は21世紀。時は止まることなく、22世紀、23世紀がやってくる。その時代が到来しても、アラブ連盟は20世紀前半から何らの変容も果たしていないだろう。

1948年、アラブ連盟加盟国はパレスチナに進攻した。当時、容認されたこの行為は、現在では許し難いことである。1916年、オスマン帝国に対する反乱に決起した同盟国との合意の下、シャリフ・フセインはアラブ国王を宣言した。

 

これも当時は受け入れられた。しかし今、誰かがアラブ国王と宣言することなどできようか?こんな宣言をする者は容認されず、正気の沙汰ではないと見なされるだろう。アラブ諸国であろうがなかろうが、全世界の笑い草となるはずだ。

 

シャリフ・フセインの息子の一人は、シリアがハーシム家の領地でないにも関わらず、シリア国王を宣言した。これも当時は受け入れられた。フランスよりシリアを追われた後は、別のアラブ国家のイラク王に納まっている。20世紀初頭、こうした事は容認可能だったのだ。

 

当時、アブドゥルアズィーズ・イブン=サウードのような指導者は、その勢力を持って、彼の故郷である「アルダリヤ」からハーシム家を追放し、ヨルダンやイエメンとの関係も顧みず、軍事力でアラビア半島の大部分を占領した。しかし現在、サウジアラビアが、アジュマーンやラアス・アル=ハイマのような小規模の首長国を併合しようと企めば、全世界がこの計画を阻止しようと一致団結し、軍事行動に出るだろう。イラクがクウェート侵攻を行ったときの世界の反応がこの良い例だ。ファールークは、かつて、エジプトとスーダンの王となったが、これも完全容認され、合法と見なされていた。

 

現在のアラブ諸国には、敵から逃れるために難民保護を求める同胞アラブ人を受け入れる義務はない。現在、兄弟であるアラブ諸国がアラブ人難民の受け入れを拒否しているため、外国諸国がこうした難民を引き受けている状態だ。昔は違っていた。アラブ人は、アラブ諸国に亡命し、難民保護を受けることができた。今では、アラブ連盟が策定した規定により、これは政治的に容認されていない。

 

アラブ国家が外国勢力による侵略を受けた場合でも、アラブ連盟加盟国に支援を求めることはできない。かつて、外国勢力の侵攻に対抗する指導者は、アラブ世界を自由に動き回り、正式な保護および支援を確保することができた。軍事闘争への財政支援が奨励され、自主的に参戦することもできた。現在、これは管轄当局によって禁止されている。

 

エジプトのナセル大統領は、アラブ民族の統一を訴えた。シリアのバース党(アラブ復興社会主義党)は、一旦はナセルを支持したものの、後に対抗馬となった。

 

そして、この汎アラブ主義を引き継いだのがリビア革命である。グローバリゼーションと巨大統合体の出現という新しい時代が幕を開けるまで、汎アラブ国家主義の夢を実現すべく、大胆な政策と勇敢な試みを実施された。

しかし今の世界地図は、欧州連合、アフリカ連合、東南アジア諸国連合(ASEAN)、独立国家共同体、新英連邦、上海協力機構、南アジア地域協力連合、米国、カナダメキシコの3国で結ばれた北米自由貿易協定( NAFTA)といった実利的かつ大規模な新統合体に基づいて形作られている。これらの新しい統合体には、人種、宗教、言語、肌の色といった要素は関係ない。

さらに、この新しい世界構造は、感情的または文化的な結びつきに基づくものではない。こうした結びつきは、実用的、実利的、経済的な効果をもたらさないからである。新しく誕生した統合体は、宗教、国家主義、肌の色、言語をベースとしていない。

 

統合体の唯一の基盤は、インフラの共有を可能にする地域性である。地域的な統合体であるからこそ、市場、関税同盟、ビザ、運輸および道路ネットワークの統合が可能となる。かかる統合は、関連地域に利益をもたらし、同じような統合体に対する交渉力および地域的な競争力の強化を実現する。

 

アラブ人は一つの人種である。同じ言語を話し、同じ文化を共有している。アラブ人の大半は、同じ宗教を信仰している。これは議論の余地のない事実である。しかしながら、地理的に見ると、彼らはアフリカ、アジア、アラビア半島に点在している。

 

アフリカにいるアラブ人は、同大陸人口の主要部分を占めており、グローバリゼーションの産物であるアフリカ連合の構成員となっている。よって、アジアのアラブ人とアフリカのアラブ人は、グローバリゼーションと巨大統合体という新しい時代の波により、分断されてしまったことになる。そのルーツにも関わらずアメリカ合衆国を建国し、アメリカ人となったヨーロッパ人のように、将来、アフリカのアラブ人もアフリカ合衆国を建国し、その一員となることであろう。この流れで、アラブ人の3分の2がアフリカ市民になるのである。

 

遅かれ早かれ、アフリカ連合は、政治、経済、安全、文化が統一された一つの統合体を形成することとなる。通貨、防衛軍、外交政策、交渉窓口が統合されたアフリカン・アイデンティティが誕生するのだ。

 

アジアに住むアラブ人の今後については予想がつかない。将来誕生するであろうアジア連合に組み入れられる可能性は高い。アジアや地中海で生まれる統合体に分散して参画することも想定できる。これも一つの可能性だが、はっきりとしているのは、アジアのアラブ人が分断されるということである。

 

アジア各地のアラブ人は分散し、より引力の強い統合体にそれぞれ吸い寄せられる。イランとアフガニスタンも、南アジアまたはインド洋に生まれる統合体に参加できなければ、同じ運命を辿ることとなるだろう。そうなれば、国家として消滅するか、良くて、巨大な統合体間の摩擦を最小化する緩衝剤または円滑油の役割を任されるくらいだ。

 

アラブ人が独自の共同体を創設することが可能か、と言う質問もあるだろう。しかし、それは可能ではない。アフリカのアラブ人は、アフリカ連合のメンバーである。選択の余地はない。これが現実であり、彼らが生存していく上での絶対条件、そこに住む上での義務なのである。

 

アフリカとアジアは二つの異なる大陸であるため、アフリカのアラブ人とアジアのアラブ人との間には地理的な隔たりがある。統合体の形成には、民族的または宗教的な繋がりは無用である。市場、経済、防衛、通貨、アイデンティティ、環境、衛星通信が統合された一つの共同体を作るには、地理的なまとまりが不可欠なのだ。

 

ナイジェリアとインドネシアは、同じ宗教を共有しているが、経済、安全、防衛面での統一を図ることは不可能である。同人種の国民を持つイラクとモーリタニアですら、こうした統一を実現することはできない。

 

アフリカのアラブ人は、全アラブ人口の3分の2を占めている。しかし、現在の国際水準でいくと、アフリカ連合には加盟はできても、アラブ人が独自の統合体を設立するには脆弱で、数も少なすぎる。アジアのアラブ人も、独自の統合体を設立するには脆弱すぎる。

 

国際競争で生き残るため、統合体には一定の生産・消費パターンが必要となる。アジアのアラブ人には、こうした不可欠な要素が欠如している。アフリカのアラブ人も同様である。この二大陸に住むアラブ人を合わせたとしても同じことである。イランまたはアフガニスタンを統合したとしても、この要素を拡充することはできない。各統合体の国内総生産(GDP)を参照すれば、これを十分に理解できるだろう。

 

欧州連合15ヵ国のGDPは、9兆2,500億ドル。

 

アラブ諸国のGDPは合計で、7000億ドル。

 

南欧州のイタリアの GDPは、1兆5000億ドルである。

 

調査によると、そのGDPがアラブ連盟諸国全体の二倍に相当するイタリアでさえ、EUに加盟していなければ、30年以内に消滅するとのことである。

 

アラブ人が、生存能力を持つ独自の統合体を設立できるなら、国民国家の時代に民族的な統合を果たしていたはずだ。しかし現実、いわゆるアラブ世界またはアラブの祖国は、巨大統合体形成の流れと過激な少数派の存在という矛盾に直面し、民族及び宗派の分裂という深刻な危険性に晒されている。

 

アラブ人による共同アクションやアラブ連盟の構造に依存しようとする試みは、失敗に終わるだろう。アラブ連盟に固執する態度は、現実に無知、または現実を無視しようとする姿勢の表れに他ならない。

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